第83回

坂本龍一『BEAUTY』

 子供というものは背伸びをするもので、それが子供の成長の元であり、またそれは見守る大人達を良い気持ちにさせます。また、過去の自分の背伸びというものは恥ずかしいものなのですが、今の自分がしようとしていることを、子供の頃の自分が「背伸び」という形で志向していたことに気付き、心地よい感動を覚えることもあります。今、テクマ!の手元には坂本龍一の1989年発表のアルバム『BEAUTY』があります。中学生のテクマ!が背伸びをして聴いていたアルバムです。このアルバムの特集をしている『Keyboard Magazine』を、背伸びして必死に読んでいたことも思い出されます。今、このアルバムが愛用のゼンハイザーのヘッドホンから鳴っています。ここ数年、なんとか出したいと思っているあのグルーヴ、あの音質、あの世界、が鳴っています。ここにあったのか、という心地よい感動のままに、今回のおセンチ日記はこのアルバムについて書いてみようと思います。
 1曲目は『CALLING FROM TOKYO』です。なんてカッコいいタイトルでしょう。知性を出そうとすることによって知的階級の嘲笑を買い、センスをアピールしようとすることによって自分のセンスが死んでいることに気付いていない人々に受け入れられ、故にリアルタイムにクリエイティヴを目指す人たちにはいまいち評価されることが出来ない教授。中野出身なのにどこか地方出身者のような教授。テクマ!は教授のこういうところまでひっくるめて大好きです。音楽には間が必要なように、人間にはスキが必要だと思います。そんな教授だけが持っているセンスの結晶のような、この曲のタイトルが大好きです。
 テクマ!はスピーカーの左右に別れて鳴ってくる金物系の音が好きです。David Bowieの『Fashion』とかYMOの『千のナイフ』とか、もう死んじゃうですから。この曲の左のハイハットと右のカリンバ(かな?)の刻み、素晴らしいです。低音の広がりといい、よく聴くと意外と小さな音でミックスされている各リード楽器といい、この音ですよ、聴きたかったのは!なーんて気分になれる要素満載です。そうそう、ライヴだと教授がサンプラーを手弾きしてラジオヴォイスを鳴らすんですが、これがカッコいいんだよなぁ。この時代はサンプリングに夢がありましたね。今やサンプリングには便利さとコストしかないですね。
 『ROSE』の素晴らしいエレピにシビれているとやって来ますよ、またまた左右からの完璧な刻みに地を這うベース、華麗なるピアノのコードが。そしてストリングスがじわっと広がって、いきなりやってくる沖縄ワールド!そう、『ASADOYA YUNTA』です。イントロの30秒だけでも聴いて下さいな。そして『FUTIQUE』、これがテクノです。続いて、じたばたしたパーカッションのアンサンブルが鳴ってきます。何かのコマーシャルでも使われていました、「Good Morning, Good Evening, Where are you?」の『AMORE』です。DJでかけると「これ誰なの?」といろんな人に聞かれる、匿名性の高い名曲ですね。当時のテクマ!がグルーヴってものをうっすら認識しはじめたのは、この曲からだったかな?と思えるのが『We Love You』。ブックレット読んでて気付きましたが、ブライアン・ウイルソンとロバート・ワイアットがヴォーカルで参加していたんですね、この曲。
 またやってきました素晴らしいエレピ、『DJABARAM』です。オブラディ・オブラダのCMでお馴染みになってきた、あの声とのマッチングも良いですね。そしてまたしてもテクノの権化、『A Pile Of Time』。このタイトルも教授らしくて好きです。このサンプリングにも夢がありますねー。このアルバムにしかない低音、がテクマ!は大好きなのですが、その極地が次の『ROMANCE』です。スティール・パンなんかも実にいいですね。三線と沖縄の歌声にひきずり込まれ、そこにやってくるストリングスに心をへろへろにされ、またしてもやってくる歌声に涙腺を直撃される7分28秒のドラマ、それが『CHINSAGU NO HANA』です。そして最後は苦行の『ADAGIO』。5回聴くと1回はいいと思えるときがあるという苦行の曲ですが、これを聴かないとアルバムは終われません。
 このアルバムはDavid Bowieで言うところの『Scary Monsters』です。最近また良くなってきてはいますが、やはりこのアルバムで何かが終わっているのです。このアルバムとそれ以前のアルバム、見かけることがあったらぜひ聴いてみて下さい。それでは、今回はこのへんで。今度は、モア・ベターよ。人身ばいばーい!

坂本龍一

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